サンカ


背中

チャイムが鳴って、大きく背伸び1回。うーん、やっと放課後だ。

9月もあと少しで終わり。近づく大学受験に周囲はピリピリ。
僕と友人たちは受験なんておかまいなしに遊びほうける日々。
今日もいつものように教室に集まってワイワイ。

あ、そうだ。模試の申し込み忘れてた。
思い出した僕は、一人教室を出る。
階段を下りると、部活の後輩の女子・Nさんが立っていて、
「せんぱい、あのっ、Yが話があるって・・・言ってます」

Yって、部活の後輩のT・Yさん?
あのおとなしい感じのTさん?
Tさんが、僕に、話?
うーん・・・なんだろう?
頭の中は「?」でいっぱい。
とりあえず模試の申し込みを済ませ、僕はTさんのところへ案内された。

1階の自転車置き場の隣、すっかり静まり返った廊下にTさんはいた。
状況が飲み込めない僕は顔を見るなり「何?」とぶっきらぼうに訊いた。

「あっ、・・・後ろ向いててください」
「・・・向こうの窓のとこ見ててください」

???
ますますわけが分からなくなる。
そして言われるままに後ろを向いた時、「もしや」と思った。
思ったが、「もしや」はすぐに「いや、まさかな」に変わった。
僕みたいなヤツに、そんなこと、あるわけが。

冷静さを失い、思考がぐるぐると猛スピードで渦巻く。
やがて僕の背中に向かって話し始めるTさん。しかし小声でよく聞き取れない。
その中でハッキリと耳に入ってきた言葉。

「・・・部活入ったときから、先輩のこと好きでした」

瞬間、全身がかあっと熱くなった。みるみる鼓動が速くなる。
まさか、そんな、いきなり、こんなことって。
そもそもこの大事な場面で僕はなんで後ろ向いてるんだ。

大興奮・大パニックの僕の背中にTさんはしゃべり続け、
「気持ちを伝えたかったから・・・先輩もう3年だし、受験で忙しいし・・・」
やはりよく聞き取れない、ていうか頭の中がそれどころじゃない。

「・・・勉強ガンバッてください。じゃあ」

え?
逃げるように走り去るTさん。
振り向けばもう姿はなく、ぽつんと取り残された僕。
しばらく呆然としてその場を動けなかった。

少し落ち着いて考えると、
そういえば文化祭のときに声かけられたような、とか、
体育祭のときに「写真撮らせてください」って言われたっけ、とか。
見え隠れしていたサインに今更気付く僕がいた。

部活入ったときから好きでした・・・かあ。へへ。
帰り道では自然とにやけていた。

きっと、顔を見ながらだと恥ずかしいから背中ごしだったんだろう。
気持ちは分かるけど、やっぱり顔を見て言ってほしかった・・・なんて贅沢かなあ。
好きだと言われた僕の背中がうらやましくて仕方なかった。

まだほのかに熱を帯びた背中は夕日に照らされ、
次に会った時の言葉を考えつつ自転車をこぐスピードを上げた。
生まれて始めての告白の感触を何度も噛み締めながら。

参加企画:一語100%


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