サンカ


いつかのメリークリスマス

「クリスマス」の5文字に背中を押され、
「プレゼント」の5文字を求めて出かけた12月のある日。
僕は、おもちゃ屋のぬいぐるみ売場の前に立っていた。

Mと迎えるクリスマスは今度が2度目。
恋人と2回以上のクリスマスを過ごすのは初めてだった。
付き合って1年半。倦怠期なんて無縁の毎日。
だからって絶対に手を抜きたくはなかった。
そこで僕が選んだプレゼントは・・・クマ。

小学生ほどの大きさはあろうかという巨大なクマのぬいぐるみ。
持ち運ぶのもひと苦労しそうなそれは見事に包装され手渡された。
こんなのプレゼントするなんてドラマかマンガみたいだ。
人目をひく荷物を抱え、満足そうに地下鉄で家路に着いた。

イブの日はMのリクエストで遊園地へ行くことになっていた。
問題は、いつ、どうやってクマを渡すかだ。
先に渡してしまうと遊園地をまわるのが大変だし。
そこで当日、待ち合わせ時間よりかなり早めに最寄り駅に行った。
幸いすぐに大きめのコインロッカーが見つかり、そこにクマを押し込んだ。

待ち合わせ場所で何気ない顔してMと会い、遊園地へ向かった。
存分に遊園地を楽しみ、食事をして、さあ帰ろうかというその時。
僕はMにコインロッカーの鍵を渡した。
きょとんとするM。ロッカーまで案内し、鍵を開けてもらう。
「わあ、すごい。ありがとう。」Mの目がきらきらと輝く。
成功した、と思った。作戦を練った甲斐があった。

「なあ、この子なんて名前?」
「え?」
「名前つけてよ。」
何にでも名前をつけたがるM。そこまでは考えてなかった。
しばらくして、クマには「リョータ」という名前を提案した。
「リョータ?うん、じゃあリョータ。」
納得したらしい。リョータはそれから毎晩Mと一緒に寝ていたようだ。
リョータに少し嫉妬したが、大事にしてくれているのは嬉しかった。
何もかもがうまくいっている、そう思っていた。

それから1年半と少しして、僕らは別れた。
Mとの4度目のクリスマスは訪れなかった。

プレゼントで一番大事なのは、その中身でも渡す過程でもない。
なにより、それに気持ちがこもっているかどうか。
あのときの僕はそのことを理解していただろうか。
段取りばかり気にして、
リョータに想いを詰め込むことを忘れていなかっただろうか。
Mの顔が、ちゃんと見えていただろうか。

恋愛ごっこに溺れていた僕は、
何もかもリョータに代弁してもらおうとしていたのかもしれない。
大事なのは僕自身の言葉だったのに。
クマのぬいぐるみより、指輪より、ネックレスより、
必要なのは飾らないまっすぐな「愛してる」だったのに。

リョータ、君は今どこかのゴミ捨て場で眠っているのかい。
ごめんよ、リョータ。

「クリスマス」の5文字は、もう何も言わない。

参加企画:クリスマス雑文祭


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