ココロ


雪が、降りだした。

かなりの量だ。バイト帰り、全身真っ白になりながら、必死で自転車をこぐ。



「・・・綺麗だな。」



雪なんてめったに降らない地方で育ったからか、それはとても珍しく特別な存在に感じられ、
いつもその白さに、美しさにばかり目を奪われる。

その裏にあるものなんて何ひとつ見えないままに。







・・・・・読み返していた。日記を。

昨日のことだ。明け方まで眠れずに、昔の日記帳を引っ張り出してきて。
そう、丁度大学1年から2年の頃の、日記を。読み返していた。



そこには、はちきれんばかりに、今にも溢れ出しそうなほどにぎっしりと詰まっていた。
記録が、記憶が、思い出が、そして様々な想いと感情が。

高校生活を惜しむように遊びまくった大学入学直前。
入学後も地元の友達と夜通し電話で語り合う日々。少しの時間を見つけてはしょっちゅう帰省していた。
次第に仲良くなる学科の友人との遊び・語り。
そして・・・人生初の彼女との始まりと終わり。



「どうして、こんなにも忘れてしまっているんだろう。」



日記から呼び起こされる記憶はごく一部だけ。
記憶力にはそれなりに自信があるはずが、全く思い出せない出来事もたくさんあって・・・

理由は、少し考えてみて分かった。











8年。











そう、あれからもう、8年もの歳月がたっている。
記憶力どうこうではない、鮮明に覚えていなくて当たり前なまでに過去の話だったのだ。
人の記憶は無限ではない。時を経るほどに色褪せていくものなのだ。

・・・僕は、あまりに多くのことを忘れていたことに愕然としたが、
次に8年の時間の流れを思い眩暈を覚えた。



読めば読むほどに、自分の幼稚さに目を覆いたくなった。
思いを寄せる子の一挙手一投足に一喜一憂。しかも対象は次々と目移り。
そして、とどめは彼女への中途半端な態度。

気持ちが全然彼女の方を向いていない。呆れるくらい。
ただ「彼女」ってものが欲しいがためにつきあったのかって怒鳴りつけたくなる。
そして最悪な別れ。辛い思いばかりさせてたんだろう。

でも、彼女が地元で僕が大阪、電話か手紙ばかりの付き合いだったと思ってたが、
意外とマメに帰省して会っていたようだ。
初めてのデートで行った阿波踊り・波乱だらけの大阪デート・彼女の家での家庭教師・・・
ああ、僕の家にも2度も来ていたんだよね。
そして、最後のデート、冬の海。これだけはよく覚えてる、心が離れていく感触を。



結局、最後までろくに手も握れないままだったね。
僕は恋愛というものをあまりに知らなさすぎたから。
あのとき、君の肩を抱き寄せてたなら・・・・・何かが変わってたのかな。

しばらくしてからの電話、本当びっくりした。でも、すごくうれしかったんだよ。
君と別れてからのお互いの恋の話もしたね。あれから年賀状も毎年くれたね。
おかしな話だけどね、別れてからの方が君のことすごく大事に思ってたよ。

・・・もっともっと色んな話をしておくんだった。
君が告白してくれた時のこと、僕らが付き合ってた時のこと・・・
今なら笑って話せたのに。
今なら・・・











・・・











窓を開けると、雪はやんでいた。

埋めて欲しかったのに。地面も、心にぽかんと開いた穴も。

白く染めて欲しかったのに。景色も、切ない思い出も。

深く、深く降り積もって欲しかったのに。

だが無情にも、雪はもうやんでしまっていた。



君が向こうへ行って最初の冬。
年賀状はもう、来ない。

2003年01月28日の心色より


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