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fast food text party(ファーストフードテキストパーティー)


未来型ファーストフード

「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ」

ガンッ。

あまりにも五月蠅いので、思いっ切りボタンを叩いてみた。
殊の外、力が入りすぎた右の手が、ジンジン痛い。
しかし僕の制止が効いたのか、言葉はピタっと止まった。


「壊れるよ、そんなに叩いちゃ」

向こうで作業していた唯一の同僚である男が、
優しい口調でそう言ってきた。たぶん、今日初めての会話だ。
僕はそれを何のリアクションもせずに無視した。
しかし、相手も返答を待つ事なく気にせず作業を再開していた。



ここは1週間前にオープンしたファーストフード店だ。
しかし、ただのファーストフード店じゃない。
『未来型』なんて言葉を上の連中は頭につけていたが、
確かに今までの店と比べると未来型、には違いないかも知れない。

店員と呼ばれるものは全てロボット。もちろん調理も全てロボット。
店舗にはお客以外の人間はいない。
ありとあらゆるサービスが全てロボットによって行われているし、
それはオートマチックでミスがない。完璧なサービスだった。
僕らはそれを最小限の人数で、上のコントロールルームから
監視していればいい。モニターに映る店内。変わらない日常。
刺激もない変わりに落胆する事もない。そんな淡々とした毎日。
進化した仕事に退化していく自分。でも、これで充分の様な気がした。



ある日、ひとりの女の子がやって来た。
どこにでもいる様な普通の女の子。
皆がやる様に普通に注文し普通にトレイを受け取るはずだった。
しかし、彼女はほんの少しだけ違っていた。

「ありがとう」
トレイを受け取る時に言ったのだ。薄く微笑んで。
ロボットに向かって言うその一言は、なんだか滑稽な感じさえした。

次の日も、またその次の日も。
彼女は店にやって来て、そして普通に注文し、
まるで普通の事の様に「ありがとう」と言う。薄く、微笑む。


ロボットの機械的な台詞に対する、彼女の人間的な言葉。
この彼女の言葉はどこに向かっているのだろうか。
そんな事をボンヤリ考えてモニターを見ると、
彼女は食事を終え、ロボットに見送られ、店を出る所だった。



僕は自然と彼女の背中に向かって呟く。

「ありがとうございました」